「久保田」らしさは明確なコンセプトから
|スナック久保田
「オーナーが久保田利伸が好きだから、『久保田』という名前になりました」笑いながらそう話すのは、この店の2代目ママである神崎百利さん。2018年2月に開店した「スナック久保田」からは、今日も賑やかな声が聞こえてくる。今回は、明るく元気に立ち振る舞う神崎ママのこれまでの人生や、これからお店が目指す姿について伺った。
「私の人生紆余曲折なんです」
そう切り出し、神崎ママは自らの生い立ちを教えてくれた。大分県佐伯市に生まれ、元夫の転勤で宮崎へ。20代前半は懐かしのシーガイア「オーシャンドーム」で働いた。当時は、アトラクションを担当したり、入場券を売ったりと大忙し。ホテルがグランドオープンするという1番いいタイミングで入社し、経営が危うくなる前に離職。その後、医療事務の職に就き、スナック久保田が生まれるきっかけとなる出会いが訪れる。
「当時一緒に働いていた同僚が、今のオーナーなんです。お互い仕事を辞め、しばらくしてから連絡があり話を聞くと『なにか新しいことをしたい人を知らないか』ということで。私が友人を紹介したことが、スナック久保田の始まりです。その友人が初代ママで、私はチーママからのスタートでした」
しっかりしたコンセプトも魅力のひとつ
お店のコンセプトについて伺うと、「あんちょこを見てもいいですか?」とその場を離れた神崎ママ。それもそのはず、スナック久保田のコンセプトは、スナックでは珍しいくらい丁寧に作り込まれていた。
——高級で妖艶、お客様に非日常、擬似恋愛を味わっていただく場へ。お客様の喜び、悲しみなどを共有し、居心地のいい空間を提供。また、ここに来たいと思ってもらえるような店へ——
「長いコンセプトでしょ。こんなにしっかりとした軸があるのは、うちが会社だから。系列店3店舗で会社にしていて、一応取締役なんです。名前だけですけどね(笑)」
近隣の「スナック竹ノ内」もそのひとつ。こちらも店名の由来は、オーナーが竹野内豊が好きという理由から来ているんだとか。
「うちのお客さんは、サラリーマンの方や建築関係の方、県外からお仕事で来ている方もいて幅広いんですよ。登録している案内所からの紹介で来てくれる方が多くて、案内所がたくさんのお客様との出会いをくれています。案内所に感謝ですね(笑)」
素人だったことが良かったのか
「そもそも私は素人なので、最初はやはり水商売の感覚がわからず苦戦しました。オープン当初は、ベロベロに酔っ払ってしまうことも多くて。でも最近は、逆にそれが良かったのかもしれないとも思います。自然体な感じが、自分の持ち味なんだと思えるようになりました」
オープン当初を明るく振り返る神崎ママ。しかし、自然体の今の自分を受け入れることができるようになった裏には、試行錯誤を繰り返してきた時間があった。
「初代のママは私より一回り若かったので、いろんなことをやっていました。コスプレイベントをしたり、ミニスカートを履いたり。最初はその流れもあり、私も挑戦していたのですが、だんだんキツくなってしまって。自分の目指す理想のママ像と、お店のコンセプトを照らし合わせて、長く続けていくためにはどうやっていくべきなのか悩むことも多かったです。頑張ってあれこれやった結果が、今みたいな自然体なスタイル。最初にいろいろ挑戦し、経験したからこそ、このスタイルが合っていると思えるのだと思います」
お客さんに助けられている店
「この店も、私自身も、お客さんに協力してもらいながら、助けてもらいながらやってこれたという気持ちがとても強いです。特にコロナ禍は、それを感じる機会が多かった。そこは本当に感謝しています」
神崎ママは話の節々に、お客さんへの感謝を口にする。そんなスナック久保田は、これからどこを目指していくのだろうか。
「まずはやっぱり、もっと街に人が戻ってきてほしいですね。うちのお店はキープがあるので、長く、たくさんのお客さんが入っても、隅々まで十分気が配れるような形にしてきたいです。女の子ももうちょっと増やして、目標である『居心地の良いお店』に近づけていきたいです」
全てのお客さんを楽しませたい
終始明るく、落ち着いて取材を受けてくれた神崎ママ。最後に、「スナックは自分に向いていると思うか」と問いかけると、迷いながらもこう答えてくれた。
「向いている…んでしょうね。なんとかこうやって、やってきたので。お陰様で、他の方からそう言われることも増えました。全てのお客さんが楽しんでくれたらいいなという気持ちは常に持っています。高級感のあるお店というコンセプトではありますが、気を使わずに、誰もが気軽に来れるお店にしていきたいです」
全てのお客さんを楽しませたいというママの気持ちは、スナック久保田に様々な仕掛けを生んでいる。カラオケの得点でゾロ目が3回出たら、焼酎ボトルプレゼントのサービスもそのひとつ。カラオケ好きなお客さんも多く、既に3本ゲットしたお客さんもいるのだそう。お客さんのリクエストでママが歌い、ゾロ目を出した時は、それもカウントされるというから驚きだ。サービス精神溢れるママたちのもてなしは、スナック久保田に足を運んだ者にしかわからない。そこのあなたも、まずは一度味わってみてはいかがだろうか。
取材=恒吉浩之、原稿執筆=いちたになな、撮影=田村昌士
Data
神崎百利(かんざき・ゆり)
最近の趣味は、YouTubeでミニマリストの生活を見ること。知らない人の丁寧な暮らしを覗き見て、自分の掃除・片付け意欲を向上させているらしい。