オペラの世界からニシタチへ、本場のワインと共に

|スナック小波

ひょっこりと中をのぞけるほどの愛らしいまん丸のガラス窓のついた扉を開くと、落ち着いた雰囲気にカウンターのみのこじんまりとした店内が広がる。一見“ごく普通のスナック”というのが「スナック小波」の第一印象だ。しかし戸棚の一段にちらっと目を向けると、スナックらしからぬ豊富に取り揃えられたワインがずらりと並べられているのに驚く。そして「うち、本当に何の売りもなくて…」と遠慮がちに話す小波ママこそ普通ではない。このスナックの最大の特徴で、ニシタチで唯一無二の存在感を放っている。

オペラ歌手目指して単身イタリアへ

2023年2月オープンと、オープンして比較的日の浅い「スナック小波」。さらに聞くところによると、スナックのママの中では珍しいことにこれまでにこうした仕事の経験は全くないのだという。どういうきっかけでスナック経営に踏み切ったのか、疑問に思いながら早速これまでの経歴を伺うと、いきなりママから衝撃の一言が飛び出した。

「実は私、オペラ歌手を目指して10年間イタリアに住んでいたんですよ」。

え!オペラ!? 着物がよく似合う和の雰囲気のママから想像できない…とびっくりしていると、うふふと口元を抑えて笑いながら、ママの人生を大きく変える出来事となった中学時代の話を教えてくれた。

「ある時音楽の授業でオペラ公演のビデオを観たのですが、そこで初めてオペラというものを知り、素敵だなあと思ったんです。その授業後に友達何人かとふざけてオペラの歌い方のマネをして遊んでいたら、『え!こなみちゃん、なんでそんな声出せると!?』と友達に驚かれて。それからはオペラのCDを聞きまくったり、気に入った曲を自分の部屋やお風呂でこっそり歌ったり…(笑) 気付けばオペラの世界にどっぷりハマっていましたね」。

「歌かお酒か」の選択が、第2のターニングポイントに

そんなママが実際にオペラの世界に足を踏み入れたのは26歳のとき。ママ曰く、一般的にオペラ歌手を目指す人たちはまず音楽大学に進んだ後、ヨーロッパへ渡りより専門的に学ぶことが多いそう。そのためママが決断した年齢はかなり遅い方だった。

「高校卒業後は、オーストラリアでワーキングホリデーを経験したり日本の離島でホテル勤務したりと、オペラどころか歌とも無縁の仕事をしていたんだけど、『オペラをしたい』という思いがずーっと捨てきれなくて。『一回きりの人生だし、今ならまだギリギリ(年齢的に)間に合うかも』と25歳でイタリアに行くことを決断しました」

こうして念願叶いオペラの本場に渡ったママだったが、イタリアに住み始めて2年後、人生第2のターニングポイントとなるような大きな選択を迫られる。 「元々お酒が大好きだったんですけど、私はお酒を飲むと声が変わってしまうということで、声楽の先生から『お酒か歌か、どちらかしか選べないよ』と言われたんです。どちらも大好きだから悩んだけど、私はそこでお酒を選んだんです(笑)」

原体験は「ママ」のあだ名が付いていたホテル勤務時代

そうして帰国後、「人生でやってみたいことが全部終わったらしようと思っていた」というスナックにチャレンジすることに。(ちなみになんと、イタリア時代から当サイトを見てくれていたそう…!)ただここまでの話にスナック要素はあまり感じられない。「スナックを始めようと思ったきっかけはあったんですか?」と尋ねると、“ママ”というあだ名が付いていた日本でのホテル勤務時代の話を教えてくれた。

「ホテル勤務の時は寮生活だったので、よくみんなで集まってお酒片手にワイワイ騒いでいました。溜まり場が私の部屋だったから、日に日に部屋のお酒の量が増えていって…。自分の部屋だし必然的に私がお酒を振る舞うことが多くなっていった結果、もはやカラオケの無いスナック状態に。いつの間にかママというあだ名も付いていました(笑) でもみんな喜んで私の部屋に集まってくれるし、この頃からもしかしたら私にはスナックが向いているのかも、と思うようになってね」

「スナックは、ずっと求めていたことを体現できる場所」

冒頭で話した通り、ママセレクトのワインもこの店の特徴のひとつ。ほとんどがイタリア産で赤ワイン、白ワイン合わせて常時15種類ほどがバランス良く揃えられている。特に最近のママのオススメは、イタリアでは珍しいと言う「リースリング」。しっかりした酸味に上質な香りを特徴に持つ飲みやすい品種の一つで、その美味しさは本場でワインを飲み歩いてきたママもつい箱買いしてしまったほどだそう。

イタリアを感じさせるのはお酒だけではない。お酒に合うツマミには、イタリアを代表する軽食で、カリッと焼いたバゲットの上に好みのトッピングを載せた「ブルスケッタ」も用意する。

さらに棚の端に置かれたおもちゃ缶には、さすがは歌好き、全部で約80枚にも上る大量のMDディスクが。一枚一枚見させてもらうとビートルズ、美空ひばり、鈴木雅之、椎名林檎、サザンオールスターズ…など、幅広い時代のアーティストたちの楽曲がずらり。どれも青春時代の思い出の曲なの、と微笑む。

最後に「好きな曲流して良いですよ!」と言ってくれたので、東京スカパラダイスオーケストラの曲をお願いしていると、「でも最近気付いたんだけどね」と嬉しそうに続けた。「イタリア時代は歌かお酒、どちらかしか選べなかったから結果的に歌を諦めちゃったけど、お酒を飲みながら歌を歌えるスナックは、まさに私が求めていたことだな!って」

「昔から熱中すると止まらないの(笑)」との言葉通り、「人生でやってみたいこと」を着々と実行してきた行動力抜群のチャレンジャーな小波さん。しかし色々な経験をしてようやく自分の“大好き”だけを詰め込んだ、ホームを見つけたように感じた。

本場のワインをしっぽり嗜むも良し、歌が好きなあなたはデュエットするも良し。楽しみ方はそれぞれ異なるだろうが、一度行くとママの自然と場を和ませるコロコロした笑い声や、さり気ない優しさに虜になること間違いなし。

取材=田代くるみ、原稿執筆=藤井美帆、撮影=田村昌士

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Data

清水こなみママ

神奈川県出身。宮崎県延岡市で育ち、オーストラリア、イタリアなどを経て帰郷。
歌、料理、漫画を読むことが趣味。得意な曲は「色彩のブルース」「歌舞伎町の女王」「銀の龍の背に乗って」「いちご白書をもう一度」など。

住所
宮崎県宮崎市中央通8−24 愛甲ビル 2階
愛甲ビル
電話
090-7908-1742
営業時間
19時30分〜翌1時
定休日
なし
喫煙
ng
席数
カウンター=11席(最大13席)
料金体系
90分=2,800円、120分=3,300円(どちらもカラオケ歌い放題)。ボトルキープは1,800円のチャージ料で時間無制限。
軽食
あり
決済方法
現金、クレジットカード、PayPay、楽天ペイ
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