平成生まれの“女前”なママがお出迎え
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ニシタチのニューカマー「スナック奏」
日本屈指のスナック街・ニシタチでは今、平成生まれの若手ママ・マスターの店も続々と増えている。今回私たちが話を聞いたのは、今年30歳を迎えた、「スナック 奏」の陶山華子ママだ。2020年12月18日にオープンしたばかりの同店。宮崎出身の彼女が東京に出て、なぜまた宮崎でスナックをオープンすることになったのか? 現在に至るまでの物語を伺った。
華子ママが歩んできた、カラフルな経歴
「人と話すのはとても好きなのですが、ちょっとシャイなんですよね」とはにかむ華子ママは、宮崎市の出身。ピアノの先生をしていた母の影響で、ピアノやバレエを習っていたという彼女は、中学生からはダンスの世界に足へ踏み入れるなど、ステージに立ち表現することを続けていた。
「他のスポーツは何もできないんですけど、大学時代まではずっとダンスをしていて、社会人になってからはフラを。割と活発な子供時代だったかもしれません。そのまま高校まで宮崎で過ごして、大学進学を機に東京に出ました」
始めは進学先の青山学院大学のキャンパスがあった神奈川に住んでいたという華子ママ。
「当時はとにかく東京に出たくて、行くとしたら進学しかなかったのでがんばって受験して。でも東京に住んでみて実感したのは、『家から一歩出ただけでお金がかかる』ということ。当時、そのことでネガティブな気持ちになってしまうこともありました。『それで嫌な気持ちになるくらいだったら、働いてお金をかせごう!』と思って、相模原のクラブでアルバイトを始めたんです」
人生の大事な場面に寄り添う仕事がしたい
元々ハングリーな性格なのかも、と笑う華子ママ。そのハングリーさは、就職氷河期と呼ばれた時代に大学を卒業した彼女の、就活エピソードからも知ることができる。
「誰かの大事な場面に寄り添う仕事をしたくて、ドレスコーディネーターを目指していました。でも就職活動中、50社ほど受験したけど全て落ちてしまって…東京にいる理由がなくなってしまうというのと、親に顔向けできない、という気持ちで必死だったんです」
第一志望だったブライダルを諦め、第二志望であったアパレル業界を受け始めた途端、就職が決まったのだそう。結局は人と話す仕事に舞い戻った形だった。しかし昼はアパレル、夜は六本木のクラブと、二足の草鞋で仕事を続けていくうちに、大きな気づきを得ることになる。
「アパレルも夜の仕事も、いろんな職業の方を相手にする仕事ですよね。結婚式に出るためにスーツを買いに来られたり、お孫さんの誕生日に服を選ばれたり。夜はお酒を介して、『今日仕事で、こんなことがあってさぁ…』みたいな話を聞いたり。どちらもその人の生活の場面に、自然に寄り添うことのできる仕事だなと気づいたんです。お客さまが、来た時よりも少しでもいい気分でお店を出てくれたら、いい仕事ができたかなって嬉しくなるし、いろんな人の価値観を知ることで、自分の世界を広げることもできていて。その二つが、自分の中で大切な軸の部分なんだなって気づいたんです」
大切なのは「自分の決断を信じること」
6年ほど東京で働き、宮崎へUターン。地元へ戻ってからは1週間足らずで、田舎でゆっくりと暮らす間もなく、市内のクラブで働き始めたのだそう。しかし帰ったばかりの頃は、当然自分に客は着いておらず、“訪れる人はみんな、誰かのお客さま”という状況だった。
「それなら『とりあえず、私は毎日店でお客さまを出迎えよう』と思い、そこから4カ月休まず店に立ち続けました。根がタフなのかもしれませんが、それ以上に仕事が大好きなんです。今、自分の店をオープンしてからも、当時のお客さまとの繋がりは絶えていません。ずっと、お客さまに支えられながらこうして頑張れているんだと思います」
謙遜した口ぶりの華子ママだが、話を聞けば聞くほど、仕事一筋で真っ直ぐな姿勢に心打たれる。また、何よりその自分を信じる行動力に感心せざるを得ない。コロナ禍の影響で以前働いていたクラブの客層が変わり、客がより気兼ねなく足を運べる店を作りたいという思いで、“あえて”このコロナ禍のタイミングで開業したことにも合点が行く。その思い切りの良さはどこからくるのだろう? 聞いてみると、さらに潔い返答が。
「今まで自分で決断して来たことは、振り返っても全部、やっぱり良かったなと思えることしかなかったんです。その時は周りに大反対されても、押し切ってみたらすごくよくて。だから、未来への不安がないんですよね。もし自分で決めてダメだったとしても、それは自分が努力が足りなかったってこと。ただそれだけなので」
美味しいワインと、こだわりのウィスキーを楽しんで
以前の内装で唯一残したというカウンターには、立派なワインセラーも備え付けられている。棚には「響」「山崎」「白州」などのウイスキーや宮崎県産のクラフトジン「OSUZU GIN」などが並ぶ。ワインもお好きなんですね?と聞いてみると、「ワイン、シャンパンが好きなんですけど、詳しくないから色々教えてもらいたいな」とのこと。「あとウィスキーは私がハイボール好きなので、お客さんに甘えていいの飲みたいな、なんて思って、いいの揃えてます(笑)」とも。
そんなコメントで締めくくられては、ワインとウィスキーの勉強をして再訪する他あるまい。“女前”なママの余韻を噛み締めながら、帰路につく筆者なのであった。
※現在は新型コロナウイルスの影響を鑑み、予約制での営業となっている(2021年4月30日現在)
取材・執筆=倉本亜里沙、撮影=田村昌士
Data
陶山華子
海が大好きで、月一でスキンダイビングに出かけていた時期も。毎日ラーメンでもいいほどのラーメン好きで、お気に入りのラーメン屋は「ラーメンきむら」。