ゴルフは苦手でもママは人生フルスイング
|スナック アルバトロス
ママの人生、山あり谷あり18ホール
老舗洋食店なども入居する第2三輪ビル。テナントの名前が並ぶエレベーター内の看板を下から順に見ていくと、2Fにスナック「アルバトロス」の文字が。今日の目的地はここだ。2Fに着くと、いくつかのカラフルなスナックの看板の中に「ALBATOROSS-2011」を発見! ドアには目印となる“ダンロップフェニックストーナメント”のポスターが貼ってある。「ここで間違いないな」という確信と共にドアをノックすると、にっこりと微笑む原田美香ママが「どうぞ、どうぞ!」と元気よく出迎えてくれた。
まず美香ママのプロフィールを紹介したい。宮崎出身の美香ママは、18歳で福岡へ。就職先はなんと、バブル時代に一世を風靡したディスコ「マハラジャ」。販売促進課に営業として入社したのだ。しかし故郷への思いが頭に駆け巡る度に、心はいつも宮崎に……。「母親が恋しくなっちゃって」と、母親世代のママが営む天神のスナックで働き始めることになる。昼は大好きなディスコの仕事、夜は優しいママとスナックの仕事。楽しい福岡の生活がスタートした。
「でも20歳で両親に帰っておいでと言われて、宮崎に戻りました。宮崎でもBIGBOXというキャバレーで働いたりして、そのあと5年くらい東京に行ってたんです。あ! そうそう、その時ホームレスだったこともあるんですよ(笑)」
ホームレス!? 聞いてないですよ! と驚きながら返すと、2万円を握りしめてアテもなくさまよった、美香ママの上京物語を教えてくれた。
「20代半ばで東京に行った時は、本当に何も決めてなくて。お金も2万円くらいしか持っていなかったから、一晩飲んだらなくなっちゃったのね(笑)。朝まで六本木で遊んで、それから『どうしよう、泊まるところない!』って。明るい中で公園で寝てたら、たまたまそこで暮らしてたホームレスのおじちゃんが、『俺昼間はここ使わないから、寝床に使っていいよ〜!』って言ってくれて。家が見つかるまではそこに寝泊まりしていました。人生面白いよねぇ」
「やりたいように、自由に」がポリシー
そんな美香ママも、この場所に店を構えて10年目。スナックの魅力を尋ねると、「楽しく、自由にできることかな?」という答えが。「だから(スタッフの)女の子たちにも、やりたいように、自由に働いてもらっています」。美香ママ自身もあまり細かいことは言わず、みんなそれぞれが楽しんで働けるように気配りをしているのだそう。これは、自分という人間のキャラクターの魅力で客のハートを掴んで来た美香ママだからこそのポリシーだ。ちなみに、美香ママが以前勤めていた店から、ママを目当てにアルバトロスに足を運んでくれる人も多かったという。
「私は営業するのも苦手だし、以前の店を辞める時もバタバタしていてお客さんに『お店始めるから来てね』なんてこともあまり伝えてなかった。お客さんの連絡先も全然知らないタイプだったし。でも友達感覚でみんな繋がっていたから、縁が切れることもなかったんだと思う。お店にも『まだ辞めないで』って言ってもらえるうちに辞めたいなぁとは思っていたし、その頃ちょうど口蹄疫で、宮崎も大変な時期だった。だから、何か事業をやるならもう自分でやろうと思って、お店を開いたんです」 口蹄疫という甚大な被害をもたらした家畜伝染病によって宮崎全体が閉塞感にさいなまれていた中で、思い切って開業へ舵を切った美香ママ。それまで築いて来た人脈もあり、県内外の客はもちろん、海外のスポーツ選手も訪れてくれるようになった。彼らにとっても“日本の宮崎へ行ったら、ここを訪ねていけばOKだから”という定番スポットとなっているようだ。
「アルバトロス」のママだけどゴルフは苦手?
ところで、店名のアルバトロスは、「あほうどり」という意味。あほうどりの飛翔力が非常に優れていることから、ゴルフのスコアを表現する専門用語としても知られる。ホールインワンよりも難しく、絶滅危惧種に指定されているあほうどりと同じく、滅多にお目にかかれないレアなスコアだ。
この名前の名付け親はBIGBOX時代に仲良くなり、アルバトロスにも来ていたというニュージーランド出身のプロゴルファー、デビッド・スメイル氏。日本プロゴルフ選手権で3位に入賞した経験を持つなど、トッププレーヤーとして活躍した選手だ。その後も何気なく話題に出て来る選手たちの名前はそうそうたるもの。それでも美香ママはまるで友人の話をするかのように、サラサラと喋り続けていく。
「でも実は私、ゴルフは詳しくなくて。誰がゴルファーで誰がキャディーかもわからないくらいだから(笑)。アーニー・エルスが世界ランク3位だったときBIGBOXに遊びに来てくれたんだけど、全然知らなくて、『キャディーさんですか?』って聞いたくらい。周りの人が『ベリーフェイマス! ベリーフェイマス!』って言ってて大爆笑しててね。店名もゴルフにちなんだものだし、詳しいだろうと思われがちなんですけど(笑)」
ちなみにママのベストスコアは? と尋ねてみると、「137!」と元気に答えてくれた。「自分の店のコンペに行ったときの表彰式では、いつも最下位やからねぇ!(笑)」とも。しかしさすがゴルファーに愛される店・アルバトロス。店には元ジュニアゴルファーで、ベストスコア75のプロクラスの腕前を持つスタッフの方も在籍されているのだそうだ。他にもネイティブレベルで英語を話すことのできるロシア人の女性など6人ほどが働いている。元気でハツラツとしたママのチャーミングな笑顔と、多彩なキャラクターのスタッフに、エネルギーをいただけること間違いない。
取材・執筆=倉本亜里沙、撮影=田村昌士
Data
原田美香
宮崎県宮崎市出身
とにかく楽しいことが好き。ゴルフはちょっと苦手だけど、今年の夏にサーフィンデビュー。みんなでわいわい飲みたい!