ニシタチきっての人情派スナック
|スナック 時間割
宮崎で成人を迎える学生たちが、不安と期待を胸にニシタチの門をくぐる。その最初のステップとして、代々受け継がれる入門編のような店でも知られるのが、この「スナック 時間割」だ。ニシタチの真ん中に位置する「たそがれビル」の1Fにあるこの店を切り盛りするのは、マスターの日高さん。喫茶店のマスターのような暖かい雰囲気を漂わせつつ、どこか飄々とした日高さんにのらりくらりとかわされながら、これまでの経歴や店の歴史について話を伺った。
マスターはみんなのお父さん?
宮崎市のご出身で、最初にお店をオープンされたのも宮崎市内。1軒目にオープンしたスナックは、女性とマスターが一緒にカウンターに立つ、よくみるスタイルのお店だったのだそうだ。
「スナックを始めたのは…最初の店から数えたら44、5年は経っちょっかな。はっきりは覚えてないね。お酒は全然飲まないから、お酒が好きで続けてるというわけでもないし…もちろん味見はするけどね。最初は女の子がいるスナックをやっていたけど、ここを始めてからは、男の子の学生さんがアルバイトに来てくれる感じでしたね。
うちは昔から、学生さんがよく来てくれていたの。昔は街中に宮崎大学のキャンパスがあったんですよ。それでというのもあったけど、キャンパスがなくなっても、変わらず来てくれていて。聞いてみたら、サークルとか部活の先輩たちが、後輩たちに教えてくれているみたいでしたね。」
客の話になると、とたんに饒舌になるマスターから、客への深い愛情を垣間見ることができる。飲み会のたびに1つのサークルごと、40人ほどの大所帯で訪れる学生も珍しくなかったのだそうだ。学生の時に通っていた店に大人になってからも、という光景は意外と見かけることも少ないが、どうやら同店は別らしい。働いていたスタッフの方やそのご家族との交流も、未だに途絶えることはないのだそうだ。
「同窓会なんかでもよく使ってくれていたけど、県外に就職しても戻ってきて、うちで集まってくれていましたよ。本人が来てくれるのも嬉しいけど、その子たちが来てくれたりするのも、とても嬉しいですよ」
ニシタチでがんばる同志たちの為に
そもそもなぜスナックやろうと思ったのか尋ねてみると、「うーん、なんやったかな。ちょっと分からんね」とのこと。これまでもほとんど取材を受けてこなかったマスターが今回話を聞かせてくれたのは、変わらずニシタチを盛り上げようと活躍されている後進たちのためだ。
「うちで働いてくれていた子たちが、今もニシタチで頑張っているから、自分でもできることがあるなら協力したいと思ってね。正直あんまり興味ないんだけど(笑)ここを出て出世していく子も多くてね。バイトしてた子も、来てくれていた子たちも、みんないい子たちなんですよ。本当に。」
曖昧に流される話題もあれば、お客さんや働いていた歴代スタッフたちの話題になると、顔を綻ばせ話をしてくださる様子に、心が温まる。「うちはお客さんが本当に良くて」と色々なエピソードを聞かせてくれた。
人格者が集まるスナック?
「店で飲んでいて、万一汚したりしても自分たちで掃除して帰る。最初は僕がもちろんお酒を作るけど、団体で来る常連の子達は自分たちで氷やらお酒やら、カウンターに取りに来てくれるの。そういうのを学生時代の先輩とかから受け継いでるんだろうね。それが伝統みたい、きちっとして帰るんだよ。」
そんな、カウンター越しであることも関係ない、フラットな関わりが居心地いいのかもしれない。昔、学生さんで店が溢れかえっていた頃には、10人で7,000円でいいよ、とほとんどお金も取らずに営業していたと聞いて、マスターの人情味に驚いていると、「マスター元気?」と常連のお姉さんが店のドアを叩いた。
懐かしい顔に会いたくて
彼女もまた学生時代から通われているとのことで、この日は2軒目に、同店へ足を運んだのだそう。あの子は元気?あの人覚えてる?と、久しぶりの再会に会話も弾む。先の話を振り返って、本当にそんな金額でやっていたんですか?と聞いてみると、「本当です!いいがいいが!とかいって、500円とかで飲ませよったよね?あの頃は学生さんが入りきらないくらい来てたんですよ」と笑いながら話してくれた。「お店があるのが嬉しいんです。20代の頃に通っていた店が変わらず今もあって、来ればマスターに会えるというのが、本当に嬉しいの」とも。マスターが話してくれた通り、客の心の拠り所のような店なのだ。
最後に今はどんな思いでお店に立たれているのか、聞いてみると、マスターらしい温かな答えが返って来た。
「懐かしいの。みんな親戚の子どもたちみたいな感じだから、会えると懐かしい気持ちになるんだね。あの子たちが若い頃から知ってるからなんだろうね。今はなかなか会えないから寂しいけれど、また近いうちに、みんなの顔が見られるようになるといいね。」
一つ一つ手で割った氷を使って作る丁寧なカクテルや、「おもてなしの気持ちで」と出している名物のたっぷりフルーツ盛りのお通し。クラシックなバーのような一面もあり、通い慣れた喫茶店のような一面もある。どこか懐かしい雰囲気をも持ち合わせたこの店ならではの魅力を、ぜひ一度、体感しに来てみてはいかがだろうか。
取材・執筆=倉本亜里沙、撮影=田村昌士
Data
日高さん
ひみつ(ほんわか効果のあるマスターの宮崎弁、興味がわいたらぜひお店へ!)